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やまとことば①

 かつて、『遠野物語』などで知られる民俗学者・柳田国男が「どんな字病」ほど恐ろしい病気はない、と言っていたそうです。
 漢字は現在の日本語になくてはならないものですが、もともとは中国から輸入されたことばであり、かつ、現在の中国語とはかなり異なっている部分があるということも、忘れてはいけないと思います。

 現在日本で用いられている漢字は、中国からもたらされたものです。日本に輸入されたそのその漢字は、もともと日本にあった固有のことば(やまとことば)と、中国での発音とを持つようになりました。
 「山」を例と、日本固有の読み方は「やま」で、中国での読み方は「サン」でした。ただ、時代の変化とともに中国で用いられていたそのことばの読み方が変わり、漢の時代の読み方である漢音と、呉の時代の読み方である呉音とができました。余談ですが、遣唐使・吉備真備に連れられ日本を訪れた袁晋卿という人物が、呉音を漢音に改め、片仮名を作ったという伝説もあります。
 ともあれ、漢字に与えられた日本古来の読み方が訓読みで、中国での読み方に近い音が音読みだと、おおよそはいうことができるようです。
 漢文は平安時代には「真名」と呼ばれ、主に貴族の男性が公文書などを記すのに用いていました(「真名」と反対に女性が用いていたのが「仮名」で、これが現在の平仮名・片仮名となりました)。漢字が日本に輸入された際、やまとことばは中国語より母音が少ないため、同音語が多くなりました。その結果、漢語は硬質な響きをもち、現在でも重厚な文章を書く場合に多く用いられているようです。
 私たちの祖先は、輸入されたことばである漢字にやまとことばを当てはめ巧みに用いましたが、すべての漢字がやまとことばに対応していたわけではありません(やまとことばと漢字の意味が十分に対応する場合、その訓読みを持つ漢字をとくに「正訓字」といっています)。もともと日本になかったものが中国から輸入された場合には、漢字の読みがそのまま日本語のように定着してしまうこともあったようです。その代表例が「菊」で、これはもともと漢字のククもしくはキクが変化して、現在日本で「キク」と呼ばれるようになりました。ヒグマという語についても、「羆」という漢字が四とクマ(熊)なのでシグマ、シの子音が変化してヒグマになったのだという説があります。そのほか、「銭」はセンが変化して「ゼニ」に、「縁」はエンが変化して「えに」となり、更に強調の「し」がついて「エニシ」になったともいわれています。
 先に、「日本古来の読み方が訓読み」と書きましたが、「むぎ」ということばはもとは中国での読み「バク」が変化したものといい(子音b音とm音とは、同じ両唇音なのでしばし交替することがありました。特に旧い呉音が新しい漢音となる際に、b音がm音に変わるということが多くあったようです)、必ずしも訓読み=やまとことば、とは言い切れない部分もあります。
 また、輸入された中国語がもともとあったやまとことばを駆逐してしまった例もあるようです。例えば「肉」。日本では「しし」(イノシシなどのシシ)であったものが、「ニク」に取って代わられました。「脳」も旧くは「なづ(ず)き」、「地震」は「なゐ」(のちに「なゑ」)といっていましたが、現在ではこれらのことばは、方言や固有名詞に残るだけとなっているようです。

【参考文献】
 笹原宏之『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社、2008年)
 中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮社、2008年)
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