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人の名前

 「ことのは」の主要項目の一つ、「人の名前」。
 以前書いていたブログに、主にヨーロッパの人名について書いていたので、再掲します。

 何冊か語源に関する本を読んだので、今度は人の名前——人名の語源について知りたくなり、『人名の世界地図』(文藝春秋社、2002年)という本を購入してみました。
 日本では、その人の名前は、親が子どもの健やかな成長などの願いをこめてつけた名前である場合が多いです(もしくは、有名人にあやかった名前などをつける場合もあります)。そのため最近では、読みの難しい、凝った子どもの名前が多くなってきています。
 ですが西欧、主にキリスト教文化圏では、聖書に登場する聖人の名前から子どもの名前をつけることがほとんどのようです。これはかつて教会の奨励があったためで、多くの国では子どもの名前を自由につけることができるそうですが、日本とは異なり、新しい名前を創出するということはあまり行われていないようです。
 聖書と関連した名前の例として、新約聖書に登場する「ヨハネ」(「神は恵み深い」という意味のヨハナン =Jojhanan から)がヨハン(ドイツ)、ジョン、ジャン(フランス)、ホワン(スペイン)、イワン(ロシア)、ジョヴァンニ(イタリア)、ハンス(ドイツ)、ショーン(スコットランド)、イアン(スコットランド)などになりました。同じくヨハネから生じた名前には他に、ジャック、ジャッキー、ジョニー、女性ではジェーン、ジャネット、ジェイソン、ジャニス、ジャンヌなどと数多くありますが、聖書に登場するヨハネと呼ばれた人物も多く、14人もいるそうです。ローマ法王のお名前としても、ヨハネは群を抜いて多いのだとか(余談ですが、聖書に最も多く見られる名前はシメオン(英語圏でいうサイモン)だそうです)。
 ヨハネの由来であるヨハナンという語は、神を意味する yo- に「恵み深い(he was gracious)」を意味する -hanan がついた名前だそうですが、この hanan から生じた名前がハンナであり、これが変化してアンナ、アン、アンネなどの名前になったといわれています。また、ヨハネから変化したジョンから派生したのが、姓ジョンソン(ジョンの息子)、ジョーンズ(同左)、ジョンストン(ジョンの荘園から来た者。-ton は柵で囲った地の意=town の意で、ヒルトン、ニュートン、ワシントンなども同様)などです。
 余談ですが、ヘブライ語の表記は子音だけなので(母音をつけなければ音声化できません)、神の名前は「YHWH」で表わされます。この御名は、かつては日本ではエホバと呼ばれていました(現在では、「ヤハウェ」という読みが正しいとされています)。この四文字のうち「Y」だけで神が表わされており、またこの四文字を神聖な文字として「テトラグラマトン」と呼びます(テトラはギリシャ語で4の意。「テトラポッド」などもここからきています)。このヘブライ語に関する話は、世界的な話題作となった『ダ・ヴィンチ・コード』にも載せられていました(「シェシャク SSK」が「バベル BBL」を意味しているという部分。アトバシュというヘブライ語の換字式暗号で、アルファベットの最初の文字をアルファベットの最後の文字と、最初から二番目の文字を最後から二番目の文字と置き換えるという方法。アトバシュという名前自体が、アルファベットの最初の文字アレフの次にタヴ、その次に二文字目であるベイト、その次に最後から二番目のシンがきており、その換字法を表しているといいます)。
 日本でいう姓(ファミリーネーム、ラストネーム、サーネーム)は出身地を示すものが多いようで、例えば有名なウォルト・ディズニー(Walter Elias Disney, 1901〜1966)のディズニーとは、フランスのカルヴァドス県イグズニー出身という意味。ウォルト・ディズニーの曾祖父はアイルランドからアメリカに移住してきたそうですが、更に辿ればフランスに出自が求められるようです。因みに、ディズニーのキャラクターやハンバーガーチェーンとして有名なドナルドはケルト語由来でスコットランド、ミッキーは大天使ミカエル由来の名で、それぞれアイルランドと関係の深い名前だそうです。
 他に有名なものとしては、スコットランド出身者を示すスコット、ウェールズ出身を示すウォーレス、コーンウォール出身を示すコーネル、ノルウェー出身者を示すノーマン、オランダ出身者を示すホランド、ロレーヌ出身を示すローリングなどなど。19世紀の飢饉によってアイルランドからアメリカに移住した人が多いので、アメリカにはアイルランド出身者であることを示す姓が多いようです(先に述べたウォルト・ディズニーの曾祖父も、この飢饉の影響でアメリカに移住してきたようです)。ミッキーの声を演じたのは他ならぬウォルト・ディズニーですが、「ミッキー」という名前はアイルランド人への蔑称という側面があるなど、名前一つとってみても、その歴史的背景には色々と負うものがあるようです。
 姓には他に、職業名を表わすものも多く、中世には騎士が必要とした甲冑や槍などを作る鍛冶屋が必要とされていたことから、鍛冶屋を意味するスミス、シュミット(ドイツ)、フェラーロ(イタリア)などの姓を持つ方が多くいらっしゃるようです。
 因みに、かの有名なチャップリンという姓は礼拝堂の牧師、ポッターという姓は土器職人を、それぞれ意味するのだそうです。

【参考】
梅田修『ヨーロッパ人名語源事典』(大修館書店、2000年)
21世紀研究会『人名の世界地図』(文藝春秋社、2002年)
サイモン・シン『暗号解読 ——ロゼッタストーンから量子暗号まで』(新潮社、2001年)
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