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オオカミについて①

日本の神話・伝説・昔話
01 /16 2019
 管理しているサイトのコンテンツで、「名前」について書いています。動物の名前の由来もなかなか面白く、私たちの祖先が、その動物についてどういうふうに考え、どんな視線で見ていたかが分かり、興味深いです。
 日本で古くから特別視されていた動物は、おそらくオオカミとヘビ。ヘビは外国でも複雑な性格をもった存在として描かれています。
 ニホンオオカミは人間の手により絶滅して久しいですが、今も日本人の信仰の中に残っています。
 ただ、記・紀神話にはほとんどオオカミについて出てこないので、記・紀神話における動物に関する項目には載せられていない記事があります。
 せっかくなので、以下に載せました。

 〈オオカミ〉の語源については、「大神」からきているとする説がほとんどです。このことは奈良時代の『新訳華厳経音義私記』(編者未詳、奈良時代の仏典注釈書)に既に見られるようですが(ただし『新訳華厳経音義私記』が論拠としている原典は亡失しているようです)、『常陸國風土記』などには大蛇を「大神」と呼んでいる例もあります(※1)。また鎌倉時代の辞書『名語記』(経尊著)によれば、狼は「山神」とも呼ばれていたようです。後述しますが、狼は、江戸時代に流行した三峯信仰の祭神で、山の神と捉えられることが多い動物であり、これはそのことを表す例と考えられます。
 また、〈オオカミ〉の語源については、「大神」の他に「大噛み」からとする説もあるようです(松永貞徳著『和句解』/江戸時代)。ただ、神のミと噛みのミは奈良時代には異なる音であったようで(※2)、それを勘案すれば、オオカミ=大神とする奈良時代の『新訳華厳経音義私記』の方が音節的にも信憑性が高いように考えられます。
 〈オオカミ〉の語源は「大神」だとされていますが、一方で記・紀などには狼はほとんど登場することはなく(記・紀神話の「宮廷神話である」という特性を勘案したとしても)、欽明天皇条(巻十九)に、狼を「貴(かしこ)き神」と呼んでいる例が見られる程度です。そしてこのことに関しても、偉大な神を狼に擬したのであり、狼=神としているわけではないという見解があるほどです。
 ただ、この記述から「貴き神」と呼ばれたのが狼そのものであると捉えるならば、「貴き神」と呼ばれている動物は他に蛇、虎のみで、虎はかつて日本にはいなかったので、オオカミと蛇とは別格であったと考えることができるでしょう。余談ですが、本居宣長は『古事記伝』において、「可畏(かしこ)きもの」を神といっています。
 また、オオカミの古名に「大口の真神」もしくは「真神」があります。『大和國風土記』逸文に、「明日香の地に人を多く喰らう老狼がいて、その地の人々は畏れて『大口の神』と呼んだ。そしてその狼が住んでいる場所を大口眞神原という」という記載があり、これがオオカミの別名「大口の真神」の由来であるとされています。ただ、これは原典が失われてしまっているので、この記述のみだけでは狼=神と見なされていたのかどうかは判然としません(この「大口の神」が、たまたまオオカミの姿をしていたというだけで、オオカミという動物が神もしくはその化身と見なされていたかどうかということは、ここからは判明しません)。しかし、この『大和國風土記』逸文を根拠として、「真神」は狼の古名であると考えられています。「真神」の字義に従えば、神に擬せられる動物の中でも真の神と考えられていたのが狼であり、その名称の由来が「大神」からきていると考えることもできるのですが。
 近世以降になると、三峯信仰が盛んになり、狼が脚光を浴びてきます。大口真神(おおぐちのまがみ)すなわち狼の神は、「御犬様」「犬神様」などとも呼ばれ、三峯神社(埼玉県)や、山住神社(静岡県)の祭神とされています。狼が神使とされている例や、狛犬が狼であると伝えられている神社(大川神社・京都府舞鶴市)も存在しています。
 楳垣 実『日本の忌みことば』(岩崎美術社、1973年)には、「狼」の本名は「山犬」であり、その忌み言葉が「大神」なのではないかと記してあります(忌み言葉と本名の逆転)。長野県下伊那郡では狼の忌み言葉に「ヤマズミサン(山住様)」、群馬県勢多郡や和歌山県日高郡には「ヤマノカミ」があり、どちらも山の神様を意味しているということです。また、山の神は女神と考えられることが多いのですが(このことから、自分の妻を卑下して呼ぶことば「山の神」、更に転じて「カミさん」ということばが生じたようです)、1年に12人の子どもを生むとされることが多い山の女神を指す「十二様」が、狼の別名とされている地域もあります(群馬県など)。民俗信仰では雨や坂、川や山なども神とされていますが、特に水神は神聖な動物とされている蛇が、山神は狼がそれぞれ擬せられています。
 さて、先に「大口真神」を祀っている有名な神社に三峯神社があると書きました。三峯信仰の神様は盗難・火難除けの御利益があります。狼は山の神の使いという捉え方もされていたので、山岳信仰が多く行われていた三峯山と関係があったのかも知れません。
 狼は山神と考えられていましたが、同時に狼は妖怪や化け物と同じくらい恐れられていたともいわれています。狼の鳴き声を擬音化したものを「モウ、モウ」などというそうそうですが、妖怪をガモウ、ガガモウ、日暮れ時をモウモウ時ともいう地域があり、これは狼の鳴き声からきている、すなわち狼の鳴き声を妖怪・化け物、逢魔が時の呼び名にするほど、狼が恐れられていたということではないかというのです。
 記・紀神話にはあまり見られない狼、同様に日本民話にもその姿はほとんど見られません。ただ「狼のまゆげ」という民話があり、その民話は、貧しいが真人間である男が、人間の本当の姿が見えるという狼のまゆげをもらったところ、唯一ちゃんと人間に見えた(=真人間である)庄屋に、その男自身も真人間であることを認められ、庄屋の娘の婿となったという筋です。
 長野県では山犬(狼)は善人を襲わない、人の心根を見透かす神だと考えられていたようで、この民話もそういった考えの表れなのかも知れません。

 ※1……ここではオホクニヌシの化身である蛇が「大神」と呼ばれています。
 ※2……「上代特殊仮名遣い」といわれ、キ・ギ・ヒ・ビ・ミ、ケ・ゲ・ヘ・ベ・メ、コ・ゴ・ソ・ゾ・ト・ド・ノ・モ・ヨ・ロは現在と異なりそれぞれ2つの音節が存在したと考えられています。例えば現在「をとこ」と「これ」の「こ」は同じように発音されますが、上代文学上の万葉仮名遣いでは「をとこ」の「こ」は万葉仮名「古」「故」を用い、「これ」の「こ」は万葉仮名「許」「己」「巨」を用いて、「こ」を区別しています。前者のコ(古・故で表記)はコの甲類、後者(「許」「己」「巨」)はコの乙類と呼ばれます。現在「ず」「づ」、「じ」「ぢ」は同じ音で発音されていますが、表記が異なることから、これらももとは別の音で発音されていたと考えられます。
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