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冬来たりなば春遠からじ

 冬来たりなば春遠からじ(英語で「If winter comes,can spring be far behind?」。英国詩人シェリーの「Ode to the West Wind」から)といいますが、一年で最も寒さの厳しいこの時期、春が待ち遠しいですね。
 春といってまず思い起こすのは、日本人であれば何といっても桜の花でしょうか。
 花が咲く、その「咲く」から「さくら」という語が生まれたともいわれていますが、この「咲く」ということばから「幸い(古くは、「さきはひ」)」ということばが生じたのだということを、私はとある本を読んで知りました。
 私は日本語——やまとことば——にたいへん心惹かれていて、自分のホームページでも「日本文化④:言霊信仰」や「言の葉」などの項目を取り扱っているのですが、その私がとても好きな一冊の本を紹介させて頂きたいと思います。

 その本は、中西進氏が書かれた『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮社、2008年)です。この本は2003年小学館から出版された『ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ』を改題・加筆訂正した本で、語源辞典とは趣が異なり、色々な日本語をひらがなにしたうえで、それらのことばの関係や成り立ちについて書いている本です。
 例えば、人間の顔にあるのは「め」「はな」「みみ」などですが、これらは植物の芽・花、そして実が二つくっついたもの(耳は二つあります)と同じ名前です。生き物の感覚器官で第一は視覚、つまり目で見ることであり、最後に耳で受容して認識する。だから、芽(目)があって、花(鼻)が咲き、末端は端(は)なので葉(歯)が出て、成熟した実(耳)で完結する、繋がりのあることばだ……と、この本には書かれてあります。
 嗅覚を司る鼻についても、「鼻」は呼吸を司る器官であり、生命活動の中では優先的な、いわば「トップ」の存在。そういうものが「はな」で、植物の枝先に咲くのも「はな(花)」、岬の突端も「はな」、それに「はなからバカにしている」「しょっぱな」なども「はな」である、と、本来は中国から輸入された外来語である漢字から離れ、ひらがなにしたときの日本語を、さまざまに結びつけ、ことばの由来や繋がりについて繙いているのが、この本の特徴です。
 日本語同士だけでなく、外国語と日本語との結び付きについても載っています。例えば昔、蛾のことは「ひひる」、蝶のことを「はべる」と呼んだそうですが(「てふ」は「蝶」の漢字音からきた外来語とされています)、古代の発音ではこれらは「ぴぴる」「ぱべる」という発音だったそうです。そしてこれらの由来は「ピル(pil)」という、サンスクリット語で「揺らぐ」の意をもつことばだったというのです。またこのサンスクリット語「ピル」が変化してギリシャ語の「プシュケー」、フランス語の「パピヨン」、英語の「フライ(バタフライ)」になったのだといいます。ギリシャ語のプシュケーは同時に魂、気息、霊魂といった意味合いを持ちますが、これは日本でも通じる考え方だといえるでしょう。ことばと、そこに宿る意味は国を超えて繋がっている部分があるのですね。
 この他にも、「あめ」(天)と「そら」(空)に関する項や、「いきる」と「いのち」に関する項など、やまとことばに込められた日本人の思想・信仰などがよく分かり、とても面白いです。また、同じく中西進氏が書かれた『日本語の力』(集英社、2006年)にも、日本語本来の——やまとことばの——関係や成り立ちに関する内容が載せられています。
 ことばを読み解くと、人びとの考え方、歴史、信仰とでもいうべきものが見えてきます。日本はまさに「言霊の幸(さきは)ふ国」ですね。

 ちなみに、春の語源には、天気が晴れ晴れとする「晴る」、芽が膨らむという意味での「張る」、田畑を耕して開くという意味の「墾(は)る」などがあるようです。この「はる」ということばは「はらふ(祓う)」という語とも関わりがあるようで、冷えて震える(冬の語源は、「冷(ひ)ゆ」「振(ふ)ゆ」といわれています)「冬」が取り払われてやってくるのが、空が明るく晴れ晴れとし、草木の芽が出て膨らんで、人びとが働き始める「春」なのだということです。

【参考文献】
 中西進『日本語の力』(集英社、2006年)
 中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮社、2008年)
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